1984年3月号 スタジオ・ボイス


歌わなきゃならない
切迫したテーマを持っているから、萩原健一というシンガーは、いつもナマナマしい            小貫 信昭(音楽評論家)


 何てドラマチック何でしょう!!ジ〜ンと来ちゃう。テンプターズの頃、雑誌に載ってたショーケンの顔のマユゲの角度がちょっと情けなかった事を思い出しながら、今の彼の新しいレコードの、まだレコード盤にはなっていないテープを聴いている。萩原健一という、日本一声を遠まわりさせながら歌うシンガーは、いつも凄いね。ノドのあたりがナマナマしい。腰の部分で弾みをつけてる。そしてヘンだ。ヘンだよ。萩原健一の今度のLPはヘンにナマナマしい。
 萩原健一は、ロックのトンガった部分とドッシリした部分を合わせ持っている。新作の『Thak You My Dear Friends』を聴くと、それがよく分かる。事の成りゆき上、もしお昼のワイド・ショー的に解釈するなら、社会への償いを終えた彼の堂々の復帰作という事になるのだろうが、ヘンに物分かりがよくなったり小さくまとまったりしていないのが嬉しい。ミュージシャンがみんなサラリーマンぽくなった中で、すごく嬉しいじゃないの。
 マッチも自分のレパートリーに加えたくらい有名な少し古い曲に「ぐでんぐでん」というのがある。「ぐでんぐでん」というタイトルで分かる通り、これはお酒を飲む歌だ。彼の歌の中でも、テーマ的には大衆っぽい。
 この曲を改めて聴くと、例えばこんな事を思ったりする。つまり、日本で一番キケンなのは、お酒を飲む事なんじゃないか、と。もちろん彼は、だからこの「ぐでんぐでん」で、逆に正しいお酒の飲み方を提示している。「ぐでんぐでん」が契機となってお酒を始めた人は、従って安心だ。
 「ぐでんぐでん」には、千鳥足をしみじみとカミしめる余裕はない。お酒の力で突然バンカラを気取ったりせず、ただひたすら飲んだくれる。お酒を飲むのに、弁解がましさがつきまとわず、まるで清酒工場の最終工程のノズルのように、イサギよくお酒が流れ出す。テーマ的には大衆っぽいこの曲が、萩原健一の肉声で濾過されると、こんな風に彼ならではのスピード感を持つワケだ。
 萩原健一は、たまに新聞の社会面にブロマイドを載せる事がある。彼の位置の問題だ。ドラッグ・カルチャーがいずれ日本を編成し直すのかどうかは知らないが、とりあえず彼は、自分の信念で自分の位置を守ってる。
 僕は、彼が安易にドラッグっぽい歌をやらないところが好きだ。以前彼は本誌の中で、ストーンズについてこんな発言をしていた。
 「だいたい、ああいう音楽ってさぁ、ドラッグ・エイジの音楽だから、そういう状況の中とか、そういう場所に行かないとよく分からないからね」(’82年4月号)。



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